1.はかなげな指揮官殿とアドレナリンな午前10時(続き)
ミラ指揮官殿の並外れた掌握力
「あっ!」
「きゃっ!」
俺たちは、セルボ班長ももとに、全速力で向かったが、一足遅かった。
セルボ班長のマニピュレートする機体のうちの1機に弾が命中。きりもみしながら落ちていった。
(このやろう!)俺たちは燃えた。
かたき討ちだ!
『うさ公』がおとりとなる。
俺の『ねこちゃん』がニャーンとないて、やみくもに敵をひっかいた。
ドス・ドス・ドスと敵機に着弾し、黒煙をあげて落ちていく。
(一丁あがりぃ!)
ラパンは? と周囲を見ると、
「ごめんね~」ラパンが墜ちていく別の敵機に手をふっていた。
「セルボさん」俺は声をかけた。
「あ、ああ、アルトか」
「どうしたんです? 具合でも」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「心配しました! 何もなくてよかったです」
「一機、墜としちまったな」
「すみません、一足遅くて」
「いや、助かったよ。ほんとうに」
ミラ指揮官の声が響いてきた。
― 敵、残機13機、すでに戦場を離脱中だ。ミッション・コンプリート。ご苦労だった。集結ポイント9・2・4・1、ペンタゴン陣形で帰還せよ。墜とされた機体は回収に向かわせる。
「ミラ指揮官殿、追撃はしないのですか?」と、俺はきいてみた。
― アルト、きみは残り弾ゲージを確認しないのか?
「あっ」俺の『ねこちゃん』の残り弾ゲージは赤く、すでに残弾アラームを示していた。
もう残り弾がすくないんだ。俺の指揮官殿はそれをしっていた。めちゃくちゃ忙しい戦闘のさなか、俺は見ちゃいなかったのに、指揮官殿は知っていた。
数多くの機体のうちのわずか一機の残り弾の数まで知っているなんて。どこまで把握しているんだ、この人は。
ミラ指揮官の底知れない能力を見せつけられて、恐ろしさを感じた。
いつのまにか、俺の右にラパン、左におケイとフロンテがいて、俺たちのドローン機が並んで基地に帰還していく。ときどきむかつくこともあるけど、なんといっても同期、いっしょにいることで安心感がわく。
「アルト、きみは残り弾ゲージを確認しないのか?」おケイがミラ指揮官の口まねをしてからかってきた。
「ちぇっ、ちょっとうっかりしていただけさ」
「でも、少しうれしかったでしょ、ミラ指揮官にしかられて」
「な、なにいってんだよ、そんなわけないだろ?」 そうはいってみたものの、実際のところは、話せて少しうれしかった。少しだけ。