れんさい

【連載SF小説】JOINT(ジョイント)(第6回)

2.親の遺志をつがなければならない子とたそがれの午後5時(つづく)

 ミラ様はセキュリティ・ライブラリー(機密図書館)にいた。

 機密にかかわる本(といってもデータだが)はここでしか見れない。ほとんどひとけがない。

 そ知らぬ顔でとおりながら確認すると、ミラ様は大画面で、なにやら複雑な設計図面を見ている。年はわたしたちと、そんなに違わないはずだけど、やっぱり頭のできがちがうのだ。

 私も『軍事ドローン保守マニュアル』なんかを借り、ミラ様の見える位置に陣取った。大画面の影で、わたしの姿は見えずらいはず。

 話しかけてみたい。でも、勇気がでない。わたしらしくない。ぜったい。

 わたしは気になっていたんだ。今日の戦闘のこと。セルボさんの調子が悪くなったのは、どうやら赤いドローンのせい。それはひとまず了解。

 でも、それを助けに行かせるミラ様の指示が、すこーしだけ、遅れたんじゃないかな、って。

 疑問におもったら解決せずにはいられない。

 それがわたしの性分。

 よーし、勇気を出していくか、そう思った時、こんもりとした人かげが、ミラ様にちかづくのが見えた。

 やばい、鬼軍曹だ!

 ふとっちょの鬼軍曹がミラ様のところに近づいてきた。

 わたしは画面(ディスプレイ)の影に、からだをすっぽり納め、すがたをくらます。まるで忍者だ。

 アンテナを立てる。とはいっても、実際のアンテナではなく、気持ちの上でのはなし。

 目は画面を向いているけど、読んじゃいない。読んだふりをして、適当なタイミングでページをめくる。それだけ。

 なになに……なんだって?

「おいおいミラ、かんべんしてくれよ、今日の指揮はどうしちまったんだ? お前らしくもない」と鬼軍曹が大きな腹をつきだして、ミラにからみはじめた。

「なにかありましたっけ?」ごく冷静にこたえるミラ。

「なにかじゃないだろうよ、ええ? お前さんの落ち度に俺が気づかないとでも思っているのか? そこまで老いぼれちゃいねえぞ」

 ちなみにわたしたちは鬼軍曹と呼んではいるが、実際には大佐。それなりに、いや、かなりえらい。

「右翼前方での支援の遅れ。そのことをおっしゃっている?」

「そうだ。わかってるじゃねぇか」

「あれはわざとです」

「わざとだと?」

「その証拠にちゃんと敵をせん滅できたでしょ?」

「だが、一機失っただろうが」

「皮を切らせて、骨を断つ、ですよ。わざと遅れることで、敵を引きつけることができた。そのおかげで16機墜とせました。『インドラ』のシミュレーションでは、13機だったんですよ。3機多いでしょ」

「それは偶然だ、結果論だ」

「結果がすべてです。わたしの判断が戦術AI『インドラ』を超えた。それが明白な事実です」

 鬼軍曹はミラ様に近づき、声をひそめた。だけどわたしの地獄耳には通用しない。

「お前が寝おちしたのも事実だ」

「はっ、何を証拠に! 寝るわけないじゃないですか! 戦闘中ですよ!」

「そうだ、俺だってそう思いたいさ。だがな、お前は寝た。戦闘中に寝たんだ」

「証拠を出してください」

「いいのか?」

 すこしたじろぐミラ様。

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