その本は東京出張の帰り、上野駅の本屋でみつけました。
本屋……なのかな? 文具がメインかもしれないけど、興味深い本を並べた一角があって、そこに立ち寄るのをとても楽しみにしています。いま調べてみると「アンジェ ビュロー」という文具屋でした。
そこで手に取ってしまった一冊の本を紹介したいと思います……。
えー、ちょっと楽しみ~♪
その本は、くすんだような茶色と金色、小さくて薄くてかっちりしていて……となりの厚い本の影のような目立たない本でした。
「なんだろう?」そう思ったのが手にとった理由。表紙には「天才による凡人のための短歌教室」とありました。
なんだか、とんがった作者の本かな、と思い、いったん棚に戻しました。
電車の出発まであと10分。
ビールとおつまみも買わなければなりません。
じ、時間がない……!
さあ、どうするたらふく!?
あちこち本を物色しましたが、これという本も見つかりません。
最近は、こうしてけっきょく本は買わず、ビールとおつまみだけ買うことが多いのです。
で、また、例のとんがった本のコーナーに来ました。
(短歌教室だったよなぁ……)
短歌には、ほのかに興味がありました。熱心に作ってみた一時期もありました。
もう一度、手に取ってみました。そして、中をパラパラ。
冒頭、「はじめに」とあり、そこに「僕は天才ではない。」とありました。
ちょっと、勝手が違います。
さいしょに思ったのとは違うかも……。そう思い、値段を確認。1200円でした。
薄いのに高い。
財布の中を確認しました。ビールとおつまみを買うくらいの現金は残ります。
あと、発車まで5分と少し……。
決めました。買いました。
ビールをプシュ! ぐいいと飲んで 本をパラパラ
木下龍也という歌人の書いた、短歌入門の本で、少し読み進むと、題名ほどとんがってはいない本だというのがわかりました。すぐに。
で、柿の種をぽりぽり。
最初に歌集を読むことをすすめています。
木下さんが選んだ作者と書名と値段が並ぶ。
その先頭にこうありました。
穂村弘『ラインマーカーズ』小学館/950円+税
わすれもしません。その名前こそ、わたしたらふくの第1期短歌ブーム時代の中心人物だったのですから。
たらふくと同じ北海道出身で同年代。
その記憶がありました。
終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて
ー 穂村弘『シンジケート』
これこれ、こういう短歌にやられてしまったのです。第1期短歌ブームのころ。
木下さんのこの「短歌教室」は、こういった胸を射抜く歌をちりばめながら、とても具体的に、わたしたちを短歌の世界に導きます。
たとえば、「第1章 歌人になる」には、
「作歌を日課に。」とあり、毎日短歌を作ることをすすめています。
木下さんは夜の11時には机に向かい、必ず1首つくることを日課にしていると、作者みずからがどうしているかを紹介してくれます。
ほかにも、第2章にある「商品をつくれ。」では、作者は「投稿から短歌を始めた。」とあり、新聞や雑誌への投稿について、自分の経験を紹介してくれています。
応募数に制限がない場合、十首送るのならまったく違う十首を送ること、といった具体的なアドバイスまでくれます。
天才きどりとか思ってごめんなさい。木下さんはそんな人ではありませんでした。
その本は、とても真剣に、かつ具体的にかかれた短歌の入門書でした。
そして、読者の心の中に「短歌書いてみようかな」と思わせる火種を植えつけ、点火し、焚きつける……入門書にとってもっとも重要な仕掛けをあちこちに仕込んだ、魅力的な入門書でありました。
たらふくが帰宅して、本棚から引っ張り出してきたのは……
数冊の穂村弘さんの本です。
穂村さんはたらふくと同じ年の生まれでした。
そして、本の奥付には2000年~2004年との発行日が記されていて、わたしの第一期短歌ブームはもう20年も前のことだったんだなあ、とあらためて驚くかと思いきや、この年になるとそんなことばかりなので、ああ、これもまたそうか、と思っただけでした。
わたしの持っている穂村さんの本はエッセイと、短歌入門っぽい本が多かったです。
木下龍也さんのこの本も、短歌入門。
歌人のみなさんは歌を作るという活動だけじゃなく、短歌というジャンルの良さを伝え、盛り上げる活動に、とても熱心に取り組んでいるということがわかります。
第一期ブームのころ、わたしは、いじればいじるほど精彩がなくなる自分の歌にがっくりと肩を落とし、つくづく自分の才能のなさに嫌気がさしたのですが、木下さんの短歌教室を読み、またチャレンジしてみようかな、短歌。そう思いました。めらめら。
最後に、この本のいちばん最初にある木下龍也さんの短歌を紹介します。
花束を抱えて乗ってきた人のためにみんなでつくる空間
ー 木下龍也 第一歌集『つむじ風、ここにあります』
それじゃまた、チャオ!