れんさい

【連載SF小説】JOINT(ジョイント)(第9回)

3.セカンド・ハンターたちのつどいとマニアックな夜10時(つづき)

「さっき、落下するときの映像を鬼軍曹といっしょに確認して、墜落地点を特定したよ。明日、再捜索らしい」

「……鬼軍曹と……一緒だったんですか?」

「しかられたよ。何ぼうっとしてたんだ、って」

「僕……、見てましたけど、ちょっと動きが鈍くなったのは……、赤いドローンを墜としてからですよね」

「あ、ああ、そうだな。え、そこまで見てたのか」

「はい……。セルボさんの狙撃スタイルは好きなので……。おとりの射撃で誘導して、死角からしとめるところなんか……、ど、独特ですよね」

「相手に自分の機体をさらすのは苦手でさ、死角からしとめることばかりやってきたからかな」

「赤い機体なんて……、珍しいですよね。珍しくて動揺したんですか?」

セルボさんは首をふった。

「いいや、一年前までは多かったんだよ、赤いの」

「あ、……そうだったんですか」

「さすがに目立つし、標的になりかねないからかな、ある時から、ぱったり現れなくなったけどさ」

「だから……、僕みたいな新参者は、……見たことないんですね」

「いま残っている赤いのは、当時からの生き残りなんだ……。僕みたいにさ」

 セルボ班長は、一年ほど前のジャコビニ半島攻略戦の生き残り。だから『生き残りの』セルボと呼ばれている。もちろん、めったなことじゃやられないという尊敬の意味で。

「じゃあ、なんか……親近感みたいなものでも……、感じたんですか?」

「まあ、そうだな。死角から赤いのを撃ち墜としたとき、まるで自分がやられたような気がして、恐ろしくなった。僕が『生き残り』って呼ばれているの、知ってるよな? ジャコビニ半島攻略戦の『生き残り』……」

「ええ、まあ……」

「ほんとうは『生き残り』なんかじゃないんだ。あのとき、当時操縦していた4機のうち、3機はやられたんだよ。一機だけが『生き残り』だったんだ。標的をもとめて前に前に進んで、気づいたら、スナイパーなのに相手に姿をさらしてた。その時はまだ、ミラ指揮官も着任前でさ、前の指揮官は僕が3機も墜とされたなんて気づいてなかった。そこから、そこから……」

 セルボさんは口元を手でおおった。

「そこから、僕の機体が欠けた穴から、相手が侵入してきて、ジャコビニ半島の漁師町が、爆撃を受けたんだ。実際に犠牲者が出た戦いだった。こんなことはめったにない。だけど本当に犠牲者が出たんだ。リアルな犠牲者だよ。もし、それが僕やフロンテの家族だったらどうする?」

「……た、耐えられませんね」

「だよな。僕は耐えられない、本当の犠牲者出る戦いなんて、僕には耐えられないって、一年前のその時、僕は鬼軍曹にいった」

「なんていいました……? 鬼軍曹」

「僕がやめるともっと犠牲者が増えるぞ、って。だから逃げちゃいけないし、逃げられないんだ、肝にめいじろ、ともいわれた」

「……きつい……ですね」

「きついね。だけどその日から、僕の心の中には恐怖がすみついてしまった。やあやあ我こそは、みたいなスタイルはとてもじゃないけどできなくなった。死角からこっそり撃ち墜とすスタイルになったのも、それからだ」

「……そんなことがあったんですね」

「だけど、ときどき怖くて耐えられなくなる。そんなときは、かならずどういうわけか、鬼軍曹が表れて、僕にいうよ『恐怖を持ったら終わりだぞ』って。まちがいないよ、終わりだよ。もう、もう、終わりにしてほしい、そう思うよ」

 急に修理ラボのドアが開き、鬼軍曹が表れた。

 固まるのは僕の方だった。

「ここにいたのか、セルボ」

「は、はい」

「今日の戦い、恐怖に取りつかれたか」

「……はい」とセルボ班著は首をうなだれた。

「いつもいっているが、恐怖を持ったら終わりだぞ、そしてお前は戦いを続けるしかない。勝つまでは、な。お前がもし、この軍をやめるようなことがあったら、あの時、命を失った一四五人の国民たちがだまっちゃいないんだからな」

「は、はい……わかってます」セルボさんは震えていた。

「わかったら、もう、部屋にもどって寝ろ、ほら、フロンテもだ」

「セ、セルボさん、修理、……終わりました」と、機体をセルボさんにわたし、僕は修理ラボから出た。そして、自分の宿舎に戻りながら考えた。

 ほんとうは赤い機体を墜としてから動きを止めたわけじゃない。戦いが終わって動きを止めたわけじゃないんだ。

 地形を利用してセルボさんの操縦している六機は、うまく敵の死角に身を隠し、そこから相手に気づかれることなく迎撃した。そして、赤いのを墜とした後、そのうちの一機がするすると身をさらす位置に出てきたんだ。それからそのまま停止しホバリングしたのだ。

 わざわざ一機が姿をさらす位置に出てきたのだ。さあ、撃ち墜としてください、とでもいうかのように……。

 

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