5.待ちに待った親子キャンプとお弁当の昼12時
今日と明日、非番のD班は、3か月に一度のお楽しみ……。
待ちに待った親子キャンプだ。
俺、アルトもこの親子キャンプを楽しみにしてた。あたりまえだ。
けどさ、外を見れない、せまいカプセルに押しこめられての移動って、ちょっとやりすぎじゃない? カプセルをオープンしたら、どこだかわからないキャンプ場。行きかえりも楽しみたいんだけどなあ、小学校の遠足みたいにさ。
まあ、基地の場所は極秘だから、しかたないんだけど……。
キャンプ場はいつも同じ。
近くに川。
少し遠くに山。
紅葉のきれいな森を切り開いて、学校のような白い宿泊施設がある。ベッドとテーブルに椅子だけの部屋に一家族づつ割り当てられて、一晩すごす。
このところ、俺らは正直、疲れ気味だった。
出撃の頻度が増えていた。
これは、精神的にも肉体的にもきつかった。
ラパンは毎晩のようにホームシックで泣き、フロンテは毎晩、趣味のドローン修理に逃避し、おケイは怒りっぽくなり、俺としょっちゅう衝突していた。つまり俺も疲れて短気になっていたってこと。
ふと思う。
俺らは4日に一度の当番だけど、指揮官ミラにとっては毎日だ。非番はない。
ものすごく、ストレスのたまる毎日なのにちがいない。だけど、俺なんかじゃ、なぐさめようがない。くやしい。
きっと鬼軍曹に、いろいろ理由をつけて、しかられているはずだ。なんとか力になりたい。ほんとうにそう思う。
そうそう、撃墜されたセルボ機、あれは結局見つからなかった。
墜落場所ふきんの住民に、ひろったのなら提出することをお願いしたが、出てこなかった。墜落をみかけたのなら通報するようにも呼びかけたが、一件も通報はなかった。
どこにいったのだろう?
なぞだ。
セルボ班長は鬼軍曹に何度か責められていた。
墜落はセルボさんの責任だとしても、墜落機体がみつからないのは、セルボさんのせいではない。怒ってもしょうがないのに。
と・に・か・く、そんな、ストレスでパンパンの俺らは、このキャンプの日になれば、すべてのストレスが発散される、そんな思いで、この日がくるのを待ちこがれていた。
そして、ついにその日がやってきた。
そしてそして、俺らはいま、キャンプ場にいる!
キャンプを指揮する少尉から型どおりの指示があった。
「部屋番号は、伝えたとおりだ。ご両親、ご家族がその部屋で待っている。急がずに各自、部屋にむかうこと。あわててころんでケガしたりすることのないように。去年、じっさいにケガした奴もいたんだからな。くれぐれも走るな。わかったな。それではD班、一時、解散!」
俺らは少尉の目のとどく範囲では、競歩のように急ぎ足で。
そして宿泊施設にはいったとたん、先を争って、自分の部屋に急いだ。
俺は312号室。三階だ。
3段ぬかしで階段をあがり、部屋まで一直線に走った。
あった。
312号室とかかれたドア。俺はノックした。返事がない。
もういちどノックした。
はい、と小さくママの声が聞こえ、ドアが静かにひらいた。
そこに立っていたのはパパとママだ。
三か月ぶりのパパとママだ。俺はふたりの胸に飛び込んだ。
「パパ! ママ! 会いたかった!」
「アルト! 元気か!」
「アルト! ちゃんと食べてた?」
しばらくの間、家族でだきあい、涙を流した。
ドローンでのリモートでの戦闘は、直接命を失うことはない。
撃ち墜とされても無人の機体なのだから。
だけど、軍事基地にいるということは、敵の攻撃の的になりかねない。そういう意味では、危険な役目にはちがいない。そのことを親・子ともにわかっていた。