5.待ちに待った親子キャンプとお弁当の昼12時(つづき)
夕焼けだったのが、急速に暗くなってくる。
D班11名、少尉の指示のもと、セルボ班長をはじめとした年長者が焚火に火をつけ、材料を切る係、焼く係、テーブルやいすをセットする係に分かれ、バーベキューがはじまった。
俺ら?
俺、ラパン、おケイ、フロンテの4人の最年少組は、へへへへ、味見の係。
なんて、それだけで済めばうれしいのだけど、給仕の係でもある。
せっせと料理を運ぶ。
運び終えたら食べる時間だ。
牛肉、豚肉、鶏肉、牛肉、豚肉、鶏肉、ぐるぐるぐるぐる肉を食べ続ける。
肉にあきたら、ロブスター、エビ、ホタテ、ロブスター、エビ、ホタテ……。海産物まつりだ。そしてそれにあきたら、最初にもどる。牛肉……。俺は、このバーベキューでは、好きなものしか食べない、そう心に誓っていた。
俺と競うように食べる奴がいる。
ラパンだ。
同期では俺とラパンが大食い。フロンテとおケイは小食だ。
もっともおケイは小食というより、好き嫌いが激しいという感じ。
肉はたべられない。魚介はものによりけり。エビやカニはアレルギーでだめ。魚も食べているのを見たことはない。貝とかワカメ、昆布は大丈夫。好きなのはパン、麺、ごはんと野菜やくだもの。ただし、トマトはだめ。
だから隊の食事では、メニューによっては、パン・麺・ごはんとサラダだけで済ますこともある。
ラパンとの勝負(?)に勝ち、パンパンの腹をかかえて、芝生に寝転がっていると、おケイがとなりにすわり、話しかけてきた。
「あんたにしろ、ラパンにしろ、よくあんなに食べれるね」
「無制限に肉を食えるのはこの時だけだからさ」
「うらやましいよ」
「やっぱり味がだめなのか?」
「味、ってわけでもないと思うんだ。エビ、カニは甲殻類アレルギーでじんましんがでるからダメだけど、昔は肉も食べてたし」
「へえ、いつくらいまで?」
「5歳くらいまで、かな?」
「とつぜん、食べられなくなったわけ?」
「そうだね、知っちゃって」
「何を?」
「食べられる牛や豚にも命があるってこと」
「そりゃそうだね」
「わたしたちと同じように生きている、そんな生き物の命をうばって食べるというのが、なんだかひどいことに思えて……」
「へえ、そんなこと考えたことなかったよ」
「そういうことばかり、いろいろ考えてたら、牛も豚も鶏も魚も食べられなくなっちゃった。これじゃいけない、って思うんだけど、どうしてもだめ」
「たしかに自分が牛や豚だったら、って思ったら、そうなっちゃうよな」
「うん」
そこへ、ラパンがやってきた。ラパンはおケイの横にすわった。
「なにを話しているのし?」
俺はおケイのことを説明し、
「ラパンはどうよ。いろいろおともだちのいるお前だから、かわいそうとか思うんじゃないの?」
「うーん、わらしとしてはですね。考えられないのし。おなかがすいたら、食べちゃうしかないわけだから。かわいそうとかそういうことは、食べるときにはかんがえられないの。それに、もう、おともだちになっているわけだから……」
「へえ」
「いまも、そこやあそこに、牛、豚、鶏がいっぱい来てるよ」
ラパンは焚火の周囲をぐるりと指さした。
「みんな、おともだち!」とラパンは立ち上がって叫んだ。
「そしてあそこに、人間のおともだち!」とラパンは一本の木を指さした。みんなが見た。暗がりの中、だけど、たしかに人の姿が見えた。
ひえええええ~~! 俺もおケイものけぞり、叫んだ!
そのおともだちがゆっくり近づいてくる。
うああああ~~、こないで! くるなあああああ~~! 叫び声があふれ出た。
おともだちが暗がりから出てくる。
「近づかないで~! 化けてでないで~~!」俺はどなった。
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