1.はかなげな指揮官殿とアドレナリンな午前10時
軍事ドローン迎撃隊の少年少女たち
― D班は中央管制室に集合せよ! くりかえす、D班は中央管制室に集合せよ!
リストバンドがけたたましくさわぎたてる。
突然のスクランブル。
いや、ちがうな。そんなこといったら、ばかもん、スクランブルはいつだって突然にきまっとる、と鬼軍曹にどやされてしまう。
走りながらですまない。でもゆるしてくれ。
俺の名はアルト。特殊迎撃隊D班の新米マニピュレーターのひとり。同期がほかに三人いる。
歳をきいておどろくな。まだ、八歳だ。同世代のみんなは、小学校にかよっている年ごろなのに、俺たちは親元からはなされ、基地に押しこめられ、いまみたいに、夜中だろうとなんだろうと、当番ならたたき起こされて、敵と戦わなければならない。
なぜかって?
そりゃあ、俺たちが優秀だからさ。俺だって、身体は小さいが、すばしっこさなら、だれにも負けない。いまだって、中央管制室に一番の……り……。あれ?
「あら、ごめんなさい。お先に失礼」
ケイだ。一番乗りをとられた。俺たちはおケイと呼んでいる。
俺より背が高いからって、いつも馬鹿にする。
「その短いあしじゃ、おそくてもしかたないわよね」
ほら、こうだ。こいつ、ほんとうに頭にくる。
「こんな早く、よく来れたな」
「あしよりも頭を使いなさい。十分ほど前から、基地のチャットがずいぶんさわがしかったわよ。敵だ、敵だ、ってね」
おケイは地獄耳だ。基地のありとあらゆる情報で知らないことはないくらいだ。
「ふん、どれだけ墜とせるかだろ?」
「そりゃそうね」
俺たちは、マニピュレーターデスクに接合した。
ゴーグルを装着すると、まるで宇宙空間にほうり出されたような感覚になる。見えている世界は実世界じゃない。実世界を人工的にえがいたサイバー空間だ。そのサイバー空間が俺を中心にひろがっている感覚だ。
そして、前方に俺の愛機『ねこちゃん』が浮かんで見える。
『ねこちゃん』は軽くふりかえって、ちらっとダブルジョイントの二連銃口をこちらに見せて、うなずいた。
ま、俺がそう操作しているわけだけど。
機体が正常かどうかは、自動的にチェックされる。けど、重要な点検ポイントは自分でも目視確認する。そうしつけられている。鬼軍曹に。
すべてOK。準備ばんたん。
右をみる。ラパンがゴーグルを装着したばかりだった。あいつはいつも遅い。
「いそげ」とラパンに声をかける。
「べー」ラパンは顔をしかめ、したを出した。
左をみる。おケイが、あごをあげて、ふん、もう終わったわよ、っていう顔をしている。
ケイの向こうにフロンテが長い首をさらにのばして、親指をたてた。俺も親指をたてかえす。
― 1010、特殊迎撃隊D班、デビルズ・ウイスパー、総勢11名26機、セットアップ完了しました。
D班班長『生き残りの』セルボさんの声だ。
D班は、11名で26機をマニピュレートする。ひとり平均、2機と少しを受け持つ。セルボ班長は6機をあやつる。しかも狙撃の精度がはんぱじゃない。神レベルだ。
それに引き換え、俺たち最年少組は、一人1機がやっとだ。
セルボ班長の宣言により、ゴーグルのモードが準備モードから戦闘モードにかわる。
『ねこちゃん』の右にラパンの『うさ公』、左におケイの『フラワー』、さらに左にフロンテの『360』が浮上している。
実際には、8席2列、合計16席のマニピュレーターデスクが並び、俺たちそのうちの11席に接合している。
俺たちの前方は、ステージになっていて、そのもっと先は壁。それも、複雑な形でさまざまなパイプが並ぶ特殊な壁。昔の映像で見た壁一面の『パイプオルガン』にそっくりだ。
だけど、もちろん楽器なんかじゃない。じゃ、いったいなんだ思う?
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